好き過ぎて憎い

先日のこと。

『マッチョ、時々、乙女』な旦那と夫婦会議をしていたら、旦那が私にこう言った。

「本当に、お前が好きすぎて憎いわ」と。

それを聞いて私は、本当にこの人と結婚して良かったと思った。

結婚というより、一緒に生きられて良かったと思った。

乙女であり小説家でもある旦那の言葉からは、こうして時々虹が出る。

 

実のところ私達が出会ったきっかけは某mixiで。

今思うと、こんなにも人生生きづらい私達でも、何気に時代の流れにのってたなとさえ思う。

遡ること13年前、まだそんなにmixiとか私の周りには全く誰もやってる人がおらず、たまたま知り合った群馬県民の、どこかの大学卒の「パソコンやってるよ」という人からmixiのことを教わった。

「人とつながれるよ。やったら?」と言われて、人を探すためにやってみた。

一方旦那はその頃、当時は某出版社の編集だったお姉さんに「mixiっていうのがあるよ。いろんな人が見てるから、作品載せてみれば?」と言われて始めたところだった。

 

当時の私は労災休養中で、シブシブ群馬の実家に戻り、リハビリを兼ねて自転車で近所の田んぼや畑の周りをキコキコしており、道端の花や空の写真を撮っていた。

写真を記事に載せて投稿し始めてから間もなく、現「乙女な肉旦那」が一枚の写真にコメントをくれた。そこから始まった。

 

コメントのやりとりから、Eメールのやりとりになり、現代版の文通みたいな期間を経て、ついに電話で話すようになり、そしてとうとう旦那が私の実家の最寄駅である某国定駅まで会いに来てくれた。何もない、本当に何もない、てか自転車置き場しかなくて学生が通学用に使うためだけにあるかのような田舎の駅に、神奈川産のシティーボーイが降り立った。

 

コメントやEメールのやりとりで、私は旦那の人柄がもの凄く伝わってきて、「気持ちの良い人だなぁ」と思っていた。

初めて電話で話した時は、彼のあまりにも聡明な声とテンポよく会話を回せる頭の回転の速さに、俄然好感を抱いた。頭の回転の速い人は大好きだ。

2つ年下の旦那は、まだ当時ちゃめっ気たっぷりのわんぱく小僧で、若さと楽しさに勢いがあった。そしてその勢いで某国定駅に来ることになったのだ。

 

mixiを始めたものの、心の底からアナログ一直線だった当時の旦那は、今でもそうだがとても疑い深い人で、私が商売女だと思っていたらしい。旦那の親友の一人も「危険だ。会いに行ってはダメだ!」と言っていたらしい。

一方私は、旦那の声とキャラクターに俄然楽しい印象を持ち、どれほどサラッサラなストレートヘアーの小柄な好青年が来るのだろうかとウキウキして駅まで迎えに行った。当時の愛車、真っ赤なフェアレディZで。

文字にするとなんだか見事にメチャクチャな設定である。

でも本当の話し。事実は小説よりも奇なり。恐るべし。

 

そして駅に着き、電車が到着し、私はルンルンで小柄で華奢なサラサラストレートヘアの青年を探した。学生服のみなさんを見送り、駅にはほぼ誰もいなくなった。

すると、階段の上に、中肉中背のややボテっとしたタンクトップ姿の青年が一人、携帯を触りながら立っている。

「違う。絵的に絶対に違う。でもあれだべ。(群馬弁)」

私は自分のイメージと実在の青年のあまりにも違いすぎる姿に半ば呆然としながらも、mixiのハンドルネームで声をかける。やっぱり彼だった。

 

ちょっと曇った目に、小柄でも華奢でもないその腕の筋肉。本人が「これは筋肉だよ!」と言って力こぶを作って見せるまでまったく筋肉だと気づかなかった私の、この想像力の乏しさに驚く。いや、むしろ逆か。想像力が豊かすぎたのか。

挨拶後の私の一言はまさに、「めっちゃ詐欺やん」でした。すみません。

 

そんなこんなでランチをし、あっという間に旦那は折り返し神奈川に帰る時間になってしまった。なんせ群馬と神奈川は非常に交通のべんが悪く、まともな時間に帰ろうとすると6時半とか7時とかには最寄の田舎駅を出発しないといけなかった。うちの実家は当時私にとても寛大で理解があったので、「無理してこの電車に乗らなくても、泊まってけば良いじゃないか。」と初めて会った好青年に私は言った。

旦那はバカがつくほど常識的な人で、「それはいけない、初めて会った女の人の家に泊まるなんて、そんなことをしてはいけない」と別れを惜しみながらも常識と葛藤していたその時だった。

Zのラジオから旦那の人生のテーマソングであるベン・E・キングのスタンドバイミーが流れた。

完全なるシンクロニシティだった。

これが旦那の心を決めた。

そして私たちは実家に引き返し、旦那は初対面の私の父にご挨拶。まずはお友達として。

 

そこから私達の現実での交流はスタートし、いろんな山を越え谷を越え、3ヶ月後には結婚することを決意し、6ヶ月後には入籍するという流れになって今に至る。

どこかの誰かの言葉で、結婚は3つのINGで決まると聞いたことがあり、フィーリング、タイミング、ハプニングだったような気がする。

まぁホントその通りだなと思う。

好きなだけでも、優しいだけでも、愛されてるだけでも、気が狂いそうなほど愛しているというだけでも、結婚には至らないのだな。

 

私は家族愛の深い蟹座の女で、星的には結婚が向いているらしいが、これまで経験してきた「先の見える一見退屈そうにも見える安定した交際」はどうしても耐えられなかった。とても優しい、死ぬほど優しい人達だったのに、彼らとはどうしても結婚には辿り着けなかった。周囲も家族も、そして本人達もいつかそうなるのだろうと思っていたけれど、どうしても結婚には辿り着けなかった。

でも結婚って、そういうものだと思う。

旦那と出会った頃は、私はある失礼なヤブ医者から「子供はまぁ無理でしょうね」と言われており、家族みんなが結婚を諦めていた。それどころか私自身は酷い痛みに苦しんでいて、結婚どころか再就職さえ絶望的だった。

旦那といえば夢を追いかけ、現実の競争社会から完全に離れており、どうやって夢を追いかければ良いのかわからなくて悶々としている時だった。

どこから見ても、結婚なんてありえないような状況だったが、そこはそれなりのハプニングと運命的な波調でもって、「じゃ、結婚しとこっか。」ということに至る。

私の中では至って自然で当然な成り行きだった。

「この人との先が、まったく予想がつかない」というのが、私の旦那に対する感想であったにもかかわらず、だからこそ堂々と自信をもって結婚に踏み切れたのだ。

当初、旦那はカナダに来ることが決まっており、私は日本で待つ予定だった。

私の就職時代の素行を知るとても尊敬する元上司には「何も結婚しなくたって。その人じゃないとわかったらどうするの?」と心配されたが、私は自信満々に「それこそ結婚してみなければわからないじゃないか!ダメだと思ったら別れれば良いんだよ!」と言っていた。

 

旦那の声のファンにはもう一人居て、それは亡くなった彼のお母さんだった。

まだお母さんが生きていた頃、時々カナダに電話をかけてくれたことがある。

当時も今も家に電話はなく、旦那の携帯にいつも電話をもらっていた。

なのでお母さんと話すのはいつも旦那が先だった。娘同様に私を大事にしてくれたお母さんは、私がカナダに来ると伝えた時にはひどく泣いた。「また帰ってきますよ。たった一年ですよ。」と伝えても、まるで今生の別れのように泣いていた。そしてお母さんは正しかった。きっと、本当にどこかで感じ取っていたのではないかと思う。

カナダに電話をもらう度に旦那と話すお母さんは、旦那の人柄がわかり、とても好印象をもってくれた。息子を亡くし、その息子の生き証人だった私の存在を無くすことがどれほど辛いことだったかを私は知っている。ましてその相手である旦那と現実で接することへの抵抗があったことも、よくわかる。でも旦那の声から出るその人柄は、お母さんの心も溶かした。

生前に大変旦那のことを褒めてくれたお母さんだったが、以前お墓参りに伺った時に初めて旦那と対面したお父さんからも「この人が旦那さんですか。なるほど偉い大絶賛なのもうなずけますな。」と言われた。旦那の心根の良さが伝わって本当に良かったと心から思ったのだった。

 

とにかく、そうして私の人生に現れた青年はなぜか私の想像したサラサラストレートヘアの華奢な青年ではなかったが、出会って13年たった今も「この先はどこへ行くんだろうね?どこへ向かってどんなところへ行くんだろうね??」とちょっとワクワクしながらもまったく想像がつかないという絶えず進み続ける人生を展開してくれている。

好きすぎて憎い、とか言いながら。

人生で一番のプレゼントだな。ホント。ありがとうございます。

 

夢を見るのは苦手だけど、目標があればそれを達成するために走れる私と、とにもかくにも夢を見る天才の乙女な旦那とで、これからも日々精進していきたいと思う次第で。

二人とも生きづらいけど、二人で生きればなんとかなるさ。

 

そして。私が結婚を決意した旦那からのメールからは、3Dで虹が出てました。

以前、あの彼が亡くなった時に悲し過ぎて世界が三重に見えた感覚と、旦那のメールを開いて心が震えた3Dの虹の感覚は、どこかでしっかりとつながる同じ愛情のしるしでした。

「この先もしも『運命の人』という存在に出会う時は、必ず全感覚でわかるはずだ」と泣きながらでも確信していたあの当時の自分に、「それは本当だよ」と背中を撫でてあげたいです。

 

というある夫婦の話しでした。読んでくださりありがとうございます。

 

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 こちらは21日なのですが、今更新したら22日付でアップされるのですね。そんなつもりで書いたわけではないのですが。