あの日の雪
昨日はつい、思いつくまま2つも記事を書いてしまった。トータル8時間。普通の勤務じゃないかい。
とにかく。こうやってその時思い浮かんでくることを、出来るだけ薄まらないように書きたい。
今日は、ある冬の話。
私には大学時代の親友が2人居る。どちらも男の子。元来女っ気が苦手な私は、話すのも連むのも男の人の方が気が楽だった。友人は数人居たけど、今もなお連絡が取れ、連絡したいと思い、それが年に一度の連絡でも魂の近さを感じる人は、この二人だけ。
そのうちの一人が、大学卒業前の冬のある日、私に一冊の本を持ってきてくれた。
よしもとばななの『キッチン』だった。
友人はこう言った。
「これ、お前に似てる。よしもとばななが似てるのか、作風が似てるのか。わからんけど、これ、お前に似てる。やるわ。」
本をもらったのは、彼が死んでしまってから数週間後だったろうか。
読み始めてからすぐに気づいた。よしもとばななは、生と死を扱う。彼女の作品を読むのはそれが初めてだったが、なんだかすぅっと引き込まれるように読んだ。読み進めば、何か答えが見つかる気がして。
どうせ毎日泣いている。毎晩夜中まで泣いて、いつの間にか眠りについている。だから夜中に、毎日読み進めた。
そして巻末に書かれていたもう一つの作品『ムーンライトシャドウ』に出会う。
友人が意図したのは、こちらだったのではないか。
読み始めてから、どんな結末になるのかとドキドキしていた気がする。決して嬉しいとかじゃない。私が見たくない結末「死んでいます、だからさようなら」、その結末だけは見たくない、今も、この先も。【死イコール永遠の別れ】ということだけは、今一番信じたくない・知りたくない。
その作中で、主人公が夜明け前の橋に死んだ人に会いに行くシーンがある。数年に一度現れるという、一瞬だけのチャンス。主人公は橋に向かい、、、、。
当時住んでいた京都のアパートの近くに、一つだけ思い当たる橋があった。その話を読んでから、なんだかとても気になっていた橋だった。だけど時間設定は夜明け前。いつもは泣き疲れて眠っている時間帯だった。
(なんか気になるけど、無理かもな。でもなんか、行ってみたいな。)
そんなある日、突然朝の6時に目が覚めた。外は寒いし曇っている。
(なんかバカみたいだけど、あの話がとても気になる。あの橋に行けば、何か見えるのだろうか。)
彼にまつわるものは全てかき集めたい。そこに意味があるなら、全て受け止めたい。
たとえそれが、さらに悲しい結末であっても。
だから目が覚めたのだろう、普段なら起きることのないこんな時間に。
出来るだけ暖かい格好をして、原付に乗ってその橋へ向かう。その川も、橋も、好きな場所だった。
もう夜はすっかり開けているけど、そんなことはどうでも良かった。
ただ会いたい。そこにある何かに、そのメッセージに、会いたい。
(どうせ何もすることがないんだ。どこで泣いても一緒だから。気がすむまで、しばらく川沿いにいよう。)
川沿いに降りて、石のベンチで何かを待つ。待つのは嫌いじゃない。希望がある。失うのは嫌いだ。あるのは悲しみだけ。
しばらくして、なんだか寒くて、そして悲しくて涙が出た。
ふつふつと涙がこみ上げてきた。どこに行っちゃったんだよ。
「いつでも来るって言ったじゃん。今来てよ。約束守るって言ったじゃん。今寂しいよ。ここに居るなら【証拠】を見せてよ。」
私がぐずり始めるやいなや、空から 【雪】が降ってきた。
あまりのタイミングに、泣くよりも笑えてきた。
(いやいやいやいや、ないない。でもすごいタイミング。さすが。)
その雪は数分で止み、あのタイミングは何だったんだろうとまた試してみたくなる。
「あのね、本当にここに居るなら、もう一回雪降らせてみてよ。そしたら今度は信じるから。」
そしてまた、【雪】が降る。そしてすぐに、雪はやむ。
(いやいや、これはたまたま雪が降るタイミングの時に、私がこんなことを都合よく唱えているだけのことかもしれない、、。)
泣くのを忘れて、しばらく考えてみた。でも結局、答えなんてないのだ。
私が信じれば、これは何かのメッセージであり、信じなければ、、。
信じない道なんてなかった。
そもそも私は理由もなくこんな時間に起きて、こんな時間にこの冬空の下、原付でわざわざ寒い川沿いに来て、1時間も過ごすようなタイプじゃない。
(きっと何かに呼ばれて来たんだ。それが彼でも、何か他の大いなる力だったとしても。)
わかっていることは、こんなにも泣き続ける私を、彼が嬉しく思っているはずがないということ。何とかして、どうにかして、涙を止めなければ。優しい彼のこと、そう思っていることは間違いなかった。
【雪】まで降らせる君の愛情、しっかり受け取りましたよ。
ありがとう。
ある冬の日でした。